8月2日に東京新聞が「吉田茂元首相の国葬後『何らかの基準必要』自民の閣僚答弁も」との記事を発表したが、この記事はミスリードである。
検証対象
8月2日に東京新聞が「吉田茂元首相の国葬後『何らかの基準必要』自民の閣僚答弁も」との記事を発表した。記事では、「吉田茂元首相の国葬後の1960年代の国会論戦で、当時の自民党の閣僚たちが国葬について『何らかの基準が必要』『検討が必要』と答弁していたことが国会会議録から分かった。」として1968年5月の答弁と1969年7月の答弁を取り上げている。

検証
記事で取り上げている答弁
昭和43年5月9日 衆議院 決算委員会
田中武夫議員の質疑に水田三喜男大蔵相が答弁している。
国葬儀につきましては、御承知のように法令の根拠はございません。だから、いまその基準をつくったらいいかどうかということについて長官からお答えがございましたが、私はやはり何らかの基準というものをつくっておく必要があると考えています。幸いに、法令の根拠はございませんが、貞明皇后の例がございますし、今回の吉田元総理の例もございますので、もう前例が幾つかここに重なっておりますから、基準をつくるということでしたら簡単に基準らしいものが私はつくれるというふうに考えています。そうすれば、この予備費の支出もこれは問題がなくなることになりますので、私はやはり将来としてはそういうことは望ましいというふうに考えています。
https://kokkai.ndl.go.jp/txt/105804103X01519680509/16
昭和44年7月1日 参議院 内閣委員会
山崎昇議員の質疑に床次徳二総理府総務長官が答弁している。
ただいま御引例になりました国葬の問題、その他いろいろと、まだ新しい憲法の後になりまして、漸次それが慣例ができてまいる、また国民の考え方もきまってまいりまして、落ちついてまいりますると、いつか定着することになり、これが法律化するということになると思うのでありまして、今日はその過程でありますし、多少その点が具体化しておらない。法律化しておらないという結果にもなっておるのだと思います。したがいましてこれに対しましては、いろいろとまだ懸案となっておりますものが数件ございます。これは決してそれでいいというわけではない。いずれはこれは検討されなければならぬものだ。私ども先ほど申し上げましたように、この点につきましては検討すべきものである、また検討いたさなければならないと存じております。
https://kokkai.ndl.go.jp/txt/106114889X02519690701/19
東京新聞は記事中で「いろいろ懸案がある。それでいいというわけではなく、検討しなければならない」と床次氏の答弁を要約しているが、この”懸案”については上記答弁から分かるように”国葬の問題、その他いろいろと”にかかるものでありやや恣意的な要約である。
記事で取り上げていない答弁
昭和52年4月7日 衆議院 内閣委員会
受田新吉議員の質疑に対し、藤田正明総理府総務長官が「閣議の決定によって行われるべき」という答弁を行っている。
それから国葬のことでございますけれども、これも旧国葬令は私たちは失効したものだ、かように考えておりまして、国葬に関しましては、吉田総理が亡くなりました四十二年のことでございますが、このときには内閣の決定で行っております。ですから、法律というよりも閣議の決定によって国葬は今後行われてしかるべきものだというふうな考え方を持っております。
https://kokkai.ndl.go.jp/txt/108004889X00919770407/40
昭和54年4月11日 衆議院 内閣委員会
鈴切康雄議員の質疑に対し、清水汪政府委員が「公式制度連絡調査会議にて国葬は概ね現在までに行われているやり方が適当だと整理した」との答弁している。
この公式制度連絡調査会議は、いまだ制度化または法制化されていない元号その他の事項について調査審議するため設けるということで随時開催するという趣旨になっております。(中略)そのほか、国葬あるいは国賓に関するような問題につきましては、おおむね現在までに行われているようなやり方というものが適当であろうというふうに一応の考え方の整理をいたしております。
https://kokkai.ndl.go.jp/txt/108704889X00519790411/129
ファクトチェックの判定
判定
ミスリード
判定理由
事実と異なることは言っていないが、より新しい方針の異なる政府答弁が記事から欠落しており、誤った印象を招く余地が大きい。
この記事はFIJのレーティング基準に基づいて作成しております。
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